<第2回> さまざまな赤潮

1 有害有毒藻類ブルーム(Harmful Algal Bloom)

  植物プランクトンは光合成を行う微細藻類の仲間であり、海洋の生態系において基礎生産者として海洋生物の生存の基本となる重要な役割を演じ、魚介類等の生産を支え、豊かな水産物の恩恵をもたらしてくれる。しかしながら一方で、植物プランクトンのうちある種は増殖や集積により赤潮を形成して魚介類を大量斃死させ、またあるものは細胞内に毒を持ち食物連鎖を介してその毒が二枚貝類、動物プランクトンや魚介類等の高次生物に転送・蓄積され、人間を含む高次捕食者(魚類、鳥類、海産哺乳類)を死亡させる等、大きな問題の原因となっている。以上のように人間や海洋生物に何らかの悪影響を与える微細藻類は、国際的には “harmful algae” と呼ばれ、原因藻類種が個体群を増大させる現象はブルーム(bloom:海水が着色する赤潮のレベルまで達しない場合を含む)と称され、有害有毒藻類種が増加する現象を “Harmful Algal Bloom = HAB”(有害有毒藻類ブルーム)という。

2 HABのタイプ

 HAB は原因プランクトンの種類や与える影響によって、下記の表のように4つのタイプに類型化される。すなわち、1) もともと無害であるが大量増殖の結果高密度に達して大量の有機物となり、死滅時に海水中の溶存酸素が消費され結果的に魚介類を斃死させる大量増殖赤潮、2) 藻類種の保有する毒が食物連鎖を通じて海産哺乳類や大型魚類、人間等の高次生物に被害を与える有毒ブルーム、3)直接的には人間に無害であるが魚介類に致死作用を及ぼし、特に養殖魚介類の大量斃死を起こす有害赤潮、 4) 海苔養殖が行われる時期にその海域で増殖して海水中の栄養塩類(とくに窒素)を消費し尽くし、生産される海苔の品質を低下させ経済的被害を与える珪藻赤潮、以上の4つである。赤潮は海水が着色する程度にまで植物プランクトンが増殖・集積される現象を指しており、上記 2)の有毒ブルームを除く3つのタイプが該当する。有毒ブルームは、海水中に有毒プランクトンがごく僅か(100細胞 /L程度)にしか存在していなくても、有用二枚貝類が濾過摂食を通じて基準値以上に毒化する事が多く、出荷規制等の水産上の被害が発生する。有毒ブルーム種でも海水が着色するまで増加することがあり、その場合は赤潮と呼ばれ、実際に魚介類の斃死の起こることが観察されている。

種々の Harmful Algal Bloom のタイプ

1)大量増殖赤潮(Biomass bloom)

基本的には無害であるが、高密度に達した場合には溶存酸素の欠乏等を引き起こして魚介類を斃死させる。
原因生物:Gonyaulax polygramma, Noctiluca scintillans, Trichodesmium erythraeum, Scrippsiella trochoidea等

2)有毒ブルーム(Toxic bloom)

強力な毒を産生し、食物連鎖を通じて人間に害を与えるもの。 海水が着色しない低密度の場合でも毒化現象(特に二枚貝)がしばしば起こる。
原因生物麻痺性貝毒:Alexandrium tamarense, Gymnodinium catenatum 等下痢性貝毒:Dinophysis fortii, D。 acuminate, Prorocentrum lima 等
記憶喪失性貝毒:Pseudo-nitzschia multiseries, P。 australis 等神経性貝毒:Karenia brevisシガテラ毒:Gambierdiscus toxicus

3)有害赤潮(Noxious red tide)

人間には無害であるが養殖魚介類を中心に大量斃死被害を与えるもの。
原因生物:Chattonella antiqua, C。 marina, C。 ovata, Heterosigma akashiwo, Heterocapsa circularisquama, Karenia mikimotoi, Cochlodinium polykrikoides, Pseudochattonella verruculosa 等

4)珪藻赤潮(Diatom bloom)

通常は海域の基礎生産者として重要な珪藻類が、海苔養殖の時期に増殖して海水中の栄養塩類を消費し、海苔の品質低下を引き起こして漁業被害を与えるもの。
原因生物:Eucampia zodiacus、Coscinodiscus wailesii、Rhizosolenia imbricate, Chaetoceros spp., Skeletonema spp., Thalassiosira spp. 等