<第4回> 有害赤潮の対策について – 1

1 赤潮の発生予知、予防、駆除

 赤潮に対して取り得る対策を整理すると、赤潮の発生予知、予防、駆除の3通りとなる。赤潮対策に取り組む場合、まず基本となるのは対象赤潮生物種の発生機構を解明し、把握することである。赤潮の発生機構は、種ごと、対象水域ごとに異なるため、調査研究には多大な労力と時間を要するが、これまでの努力によりシャットネラ(Chattonella spp.)、カレニア(Karenia mikimotoi)、ヘテロカプサ(Heterocapsa circularisquama)等の主要生物では発生機構が概ね解明されている。赤潮被害の軽減を図る上で赤潮の発生予知は重要であり、そのためには科学的な調査研究に基づく発生機構の解明が前提となる。とくにシャットネラ赤潮は被害が大きく、その予知は社会的に必要性が高いため、綿密なモニタリングを基礎として精力的に発生予知が試みられてきており、先行指標に基づく予知予察を含めて様々な検討がなされてきた。現在は、ある程度の精度でシャットネラ赤潮の発生予知が可能になってきている。


2 赤潮対策の現状

 魚介類の斃死を伴う有害赤潮の発生予防や駆除を目指し、これまでに施行され、あるいは検討されてきた赤潮対策を表1に示した。
 養殖漁業者が取り組むことのできる対策としては、緊急対策としての餌止め(耐える)と生け簀の鉛直的あるいは水平的な移動(逃げる)があげられる。また養殖技術の改善として、漁場の汚染を最小限にする餌料の使用や投餌量の管理、適正放養密度の遵守がなされている。さらに、赤潮発生時にブリなどが斃死を免れるために自力で濃密な赤潮水塊から逃避できるよう、大型生け簀を用いた養殖魚の放養飼育が香川県などで実施されている。養殖漁場の環境改善としては、海底に蓄積した栄養物質や汚染物質を除去し、あるいは底質の改善を目指して浚渫や海底耕耘がなされている。
 赤潮の発生を未然に防止するためには、過剰な栄養塩類の海域への流入を制御するか、富栄養化した水域から栄養塩類を除去する必要がある。海域への栄養塩類の流入制御においては、廃水の浄化処理が一定の貢献をしているが、種々の法的な規制(表1)が最も堅実で確実な効果を発揮しているといえる。中でも、1973年に瀬戸内海環境保全臨時措置法として成立施行され、1978年に恒久法化されたに瀬戸内海環境保全特別措置法においては、瀬戸内海環境保全基本計画が策定され、水質総量規制を含む様々な施策が含まれており水質の向上に貢献している。また、施策の項目の中には、「赤潮の発生及び貧酸素水塊の形成のメカニズムの解明並びにそれらの防除技術の向上」が銘記されていることから、赤潮対策の重要性が理解できる。

3 望ましい赤潮対策の方向性

 表1に示した様に1980年代頃まで様々な対策技術が検討された。しかしながら直接的対策としては、これまで粘土散布以外に実用化された技術はほとんどない。それは規模やコストに関する考慮がなく、環境への配慮を欠いているからである。そこで、そのような問題点を考慮し、現時点で有効、あるいは将来有望と考えられる赤潮対策を表2に示した。これまで実質的には、法的規制、モニタリングによる予察、養殖魚場の環境改善、餌止め等の間接的な対策が被害の低減に貢献してきた。モニタリングデータを活用した予察精度の向上は、将来大きく期待できよう。直接的な対策として粘土散布が、赤潮プランクトンの凝集能力の増強(焼きミョウバンの添加)等技術の改善が著しいことから、赤潮発生後の現場における緊急対策として期待されている。
 生物学的な予防策として、赤潮生物の生理生態学的特性を考慮し、カレニア赤潮に対しては中層定位の撹乱による初期個体群の増殖阻害が近年提案されている。藻場やアマモ場の殺藻細菌の活用、あるいは赤潮鞭毛藻に対する競争者である珪藻を活用した赤潮の直前予防は、環境に優しい生物学的防除法として期待される。特に海底耕耘は、鞆の浦におけるシャットネラ赤潮、及び大阪湾における有毒なアレキサンドリウムのブルームの制圧に成功している。生物学的な防除対策については、次回、もう少し詳しく説明を加えたい。

表1 過去に取り組みが検討された赤潮対策(今井 2012:海洋と生物191)

間接法
・法的規制
  水質汚濁防止法、海洋汚染防止法、農薬取締法、瀬戸内海環
境保全特別措置法、持続的養殖生産確保法、有明海八代海再
生特別措置法
・環境改善
  水質:藻類等による栄養塩回収
  底質:浚渫、曝気、耕耘、石灰・粘度・砂の散布、ベントス
     (Capitella)による浄化
  養殖技術:餌料の改良(モイストペレット等)、漁場の適正
       利用、大型生け簀
・緊急対策
  生け簀の移動(水平・鉛直)、餌止め

直接法
・物理的方法
  物理的衝撃:超音波、衝撃波、電流、発泡
  海面回収:吸引、濾過、捕集(赤潮表層水の回収と遠心分離
       除去)
  凝集沈殿:高分子凝集剤、鉄粉、粘土散布
・化学的方法
  化学薬品:過酸化水素、有機酸、界面活性剤、硫酸銅、アク
       リノール、水酸化マグネシウム
  化学反応:オゾン発生、海水電解産物
・生物的防除
  捕食:二枚貝(カキ)、橈脚類、繊毛虫、従属栄養性渦鞭毛
     藻、従属栄養性鞭毛虫
  殺藻:ウイルス、細菌、寄生カビ、寄生渦鞭毛藻

表2. 現時点で有効あるいは有望と考えられる赤潮対策(今井 2017:養殖ビジネス)

間接法
・法的規制
  水質汚濁防止法、海洋汚染防止法、農薬取締法、瀬戸内海環境保全特別措置法、
持続的養殖生産確保法、有明海八代海再生特別措置法
・ モニタリングによる予察
  分子モニタリング
  データ解析やモデリングによる予察精度の向上
・環境改善
  養殖技術:餌料の改良(モイストペレット等)、漁場の適正
       利用、大型生け簀
・緊急対策
  餌止め、生け簀の移動(水平・鉛直)

直接法
・物理化学的方法
  粘土散布
  中層定位の撹乱(カレニア<Karenia mikimotoi>赤潮)
  濃密域のシストや耐久細胞の除去
・生物的防除
  殺藻:ウイルス、殺藻細菌、寄生カビ、寄生渦鞭毛藻
  競争的制圧:珪藻(海底泥中の休眠期細胞の海底耕耘等によ
        る持ち上げ)