サブマリンクリーナー工法の解説
1.背景
(1)養殖海域での環境
近年、地球温暖化に伴い海水温の上昇がみられています。また、沿岸域での養殖業は、底質の富栄養化、海底の貧酸素化、プランクトンの大量発生に伴う赤潮、貝毒等様々な影響を受け、大きな環境問題を抱えています。(図-1)
(2)養殖での赤潮対策
現在、赤潮が養殖近海で発生すると赤潮対策として餌止め、養殖筏の移動等の処置をとっています。
近年、赤潮の原因であるプランクトンのシストの分布が解るようになり、特定の海域にシストが高密度で分布しているところがあります。この海域のプランクトンのシストを除去することにより湾全体のシスト密度を下げ、赤潮の発生を抑える対策が効果的であると考えられます。
赤潮の発生海域は、毎年の傾向から推測できるため、赤潮発生から養殖場に到達するまでに赤潮対策の措置を講じる事ができます。しかし、養殖場の横で突然、赤潮が発生すると赤潮対策を講じる暇もなく、被害にあってしまいます。これは、前年に赤潮が発生後、シストが養殖場近くに高密度で堆積していた為とみられています。養殖場を赤潮被害の度に移動させるには、手間と費用が掛かるため、こういった海域に薄層浚渫技術を施すのも一つの赤潮対策と思われます。(図-2)
2.サブマリンクリーナー工法の概要
(1) サブマリンクリーナー(SMC)工法
サブマリンクリーナー工法は、海底の底質を表層から厚み約25㎝をジェットでかき混ぜ、舞い上がった細かいシルトだけをサンドポンプで吸い上げて、底質を厚み約10㎝除去できる新技術です。
施工中は、海が濁らない為、養殖場の真横でも安心して施工ができます。(図-3)
(2) 鹿児島県長島町での施工実績
平成23年度、鹿児島県にて赤潮の原因であるシャットネラのシストを薄層浚渫の技術を使って除去する赤潮対策実証事業です。
平成21年に有明海・八代海で主にシャットネラが原因と思われる養殖被害が約33億円発生し、平成22年には約53億円に被害が拡大しました。シャットネラのシストは、被害にあった養殖場の付近で高密度に存在し除去の必要がありました。
鹿児島の事業では、脇崎地区23,000㎡、伊唐地区22,000㎡の計45,000㎡を施工し、底質を厚み10㎝除去しました。(図-4)
施工の効果は、全体でシャットネラのシストを82%除去しました。その後の赤潮による被害は認められませんでした。(表-1)
(3) 有明海での施工実績
有明海では、海苔の養殖が盛んにおこなわれています。近年、海苔の色落ちにより海苔の生産に影響を与えています。
雨の少ない毎年1月頃に発生するアステオネラによる赤潮により海苔に栄養が不足しているのが原因だと思われます。(図-5)
実証実験は、佐賀県と㈱ワイビーエム、大石建設㈱との共同で行いました。
赤潮の原因であるアステリオネラのシストをサブマリンクリーナー(図-6)で海底の泥と共に除去し、海上に揚げたシストを含む泥水をキャビテーション装置(図-7)にてシストの破壊と高酸素水の生成を行い、これを除去した海底に戻す方法です。(図-8)
工法による効果 | |
サブマリーンクリーナーによる除去率 | 82% |
キャビテーションによる破壊率 | 97% |
合計 | 約80% |
また、海底に戻された泥水の酸素飽和度は0.4%から36%に改善されました。
3.今後の課題
(1) 揚泥処理工法の簡易化・コストダウン
近年、港湾・漁港工事の減少に伴い、海底の底泥を陸上に揚泥して陸上処理を行うヤードの確保に苦慮する自治体も多く、事業を実行するにあたり頭を悩ませています。
広いヤードが確保できるのであれば、安価な天日干しが有効と思われますが、限られたヤードでの陸上処理となると機械設備を用いた高額な陸上処理設備となります。また、海外で使用されているジオチューブという特大土嚢(φ8.8m×L50m)に泥水を入れて濁水処理を行う方法もコストダウンにつながります。
(2) 処理土砂の減容化と再利用
ヤードの確保と同様に土砂の処理場の確保も難しくなっています。広大な埋立地又は土砂処分場を必要としない事業にする為にも、揚泥する土砂を必要最小限にして減容化する必要があります。
これにより、事業費のコストダウンが見込まれます。
陸上処理した土砂は、栄養分を多く含んでいる為、畑の土又は燃料として有効利用できる可能性はあります。しかし、塩分を含んでいる事と発生する土砂が大量であるためすべてをリサイクルとして有効利用するのはこれからの研究課題です。